投球動作の大前提は"自然に、意識せず"
投球動作を説明する前に大前提についてお話します。
運動には、意識的な動作と無意識的な動作があります。
たとえば、歩くときや走るとき、いちいち脚をどう動かすかを考えて走る人はいません。
陸上部などで、フォームを修正するときに、脚や腕の振りを修正するときに一部を意識する人もいるかもしれませんが、基本的な動作は99%が自動で行われます。
全身に約400個ある筋肉をうまく使い、呼吸や心臓や発汗の動きを制御するためには、一つ一つ意識していてはとても間に合わないません。
運動中において、わたしたちが意識でなんとかできる範囲はものすごく小さいということをまずしっかり認識しなくてはいけません。
運動は99%自動で行われる
そういう前提をわきまえれば、人間には強い意識の力がありますから、幸いなことに、動作を改善していくことができます。
意識して行っていた動作も、繰り返すことで、身体が憶えて自動ででできるようになる仕組みがあるからです。
これが、「練習」の仕組みです。
投球を含む運動動作の改善は、数ある要素の中から、特に重要となる部分や、大きく非効率な部分を抜き出して、修正していく作業です。
自然状態を思い出す、もうひとつの「練習」
これから投球動作の改善を行っていこうとする場合、動作改善のための「練習」を行うことになります。
さきほど説明したような、まずいポイントを抜き出して修正するやり方をする前に、やるべきことがあります。
多くの人の場合、これまで教えられてきた常識や、集団生活の中で覚えた立ち振る舞いや、部活動での指導や、テレビで見たステレオタイプのイメージや、近くにいた人の悪い動作や、これまでの運動で偶然身についてしまった悪癖など、
そういうものの影響を受けた非効率な動作が多くの部分にみられます。
構え、脱力、立ち方、並進運動、腕のあげ方、肩甲骨の使い方、などなど、重要な部分がガタガタの状態になっています。
こういった状態を、一つ一つ直していくのは効率的な方法ではありません。
こういった状態にある人の場合、今覚えている投球動作の記憶をいったんきれいに忘れて新しい動作を上書きしてもらいます。
生まれたとき、とまではいかなくとも感覚的に、5~6歳児の頃に戻ってもらうということになります。
いうならば、自然状態を思い出す作業です。
いったんすべての知識や前提を捨ててもらい、ただボールを投げてもらう。
内部感覚を研ぎ澄ませて、しっくり速い球を投げられる感覚をつかむまでこれをやることが重要です。
こういった作業により、いったんリセットしたほうが圧倒的早く、理想的な動作になる可能性が高くなります。
微調整
大枠のフォームが身体に定着してきたら、微調整をしていきます。
ここからは、練習らしい練習ということになります。
この際に一番気をつけることは、自然なフォームを壊さないということです。
身体が99%自動で動いているということを忘れないことです。
身体の自動投球システムを破壊するようないじり方をしてはいけません。
良くなるのは少しずつでも、壊れるのは一瞬です。
たとえば、直球の回転をきれいにしようとして、かまぼこ板を投げる練習をしているところがありますが、あれなどは論外です。
ボールとかまぼこ板は形状、重さ、全く違うため、身体動作も大きく変わってくる上に、100km/hを超えるスピードで動いている指先を、「意識」でまっすぐ修正しようなど
、人体の仕組みを完全に無視した傲慢で愚かな行為としかいいようがありません。
その練習で、まず間違いなく、多くの人が肘を痛めたのではないかと思います。真剣に縦回転をかけようと練習した人ほど。
こういったことを防ぐため、練習メニューには細心の注意を払うようにしてください。
意味が疑問だったり、身体に悪影響がありそうだと感じたら、やめることです。
所詮微調整である「練習」で大きくケガをしては本末転倒です。
自然なフォームが身についたら、動作の90%は完成しているのですから、残る10%など微々たるもの。焦る必要はないのです。
微調整の基本は動画の見比べ
微調整の基本は動画の見比べになります。
動画を撮らないでやる練習はものすごく非効率なものになります。
撮らないと自分がどう動いているかなんて分からないのですから。
撮ってみてみると分かりますが、自分の意識と映像は大きくずれていることがほとんどです。
自分ではオーバースローで投げていると思っても、サイドスロー気味に投げていたり、
キャッチャーのほうを見て投げていると思っても、一瞬顔がふられていたり、
軸足を蹴っていると思っても、引きずっていたり、
ストライドを広めにとっているとおもっても、狭かったり、
動画を撮ることで、いろいろなことがわかります。
誰かにフォームを教えてもらうやり方はほとんど運任せになります。
①タイミングよく教えてくれるとは限らない。
自分がコレだ!としっくりきた投球や、これはまずかったな!という投球のときに確認できなくては効果は半減します。どうでもいいときのフォームは、身体がどんな感覚だったかそんなに覚えていないからです。
②正しく教えてくれるとは限らない。
腕の角度どうだった?ときいても、人によって斜めだったよ、とか横だったよとか、表現にばらつきが生じます。人によって言葉の認識や価値観や固定観念が違うからです。
③間違ったことを教えられる可能性がある。
かなり高い確率で、間違った知識を教えられます。プロの選手がつぶれる一番の原因もコーチの指導といわれています。プロの世界ですらそれが現状であり、アマチュア野球で正しいことを教えられる人はほとんど皆無だと思います。ほとんどの指導者は投球動作や身体メカニズムや心理といった超重要なことを馬鹿にしてほとんど勉強していないからです。
④信念がない指導者は教えようとすると「決まり文句」ばかりになる。
よくわからない人に聞くと、必ずと言っていいほど「壁」とか「開き」とか「球持ち」とか「粘り」といった、決まり文句による指導に終始します。
彼らは仕組みそのものがよくわかっていないので、世間で正しいといわれている言葉=とりあえず言っておけば責められないような言葉=決まり文句しか言えません。
それ以上つっこんだ話はできないのです。
以上のことから、最良の方法は、自分で動画をとって、投げた直後に確認したり、家に帰って何度も見ることです。
そして、理想とする選手のフォームと見比べて、違うポイントをどこか見つけ、
何が違うのか仮説を立てていろいろと試してみることです。
「投球動作」の項目では、多くの人がはまってしまいやすいポイント(主に変な癖・無駄な動作の排除が目的)を中心に、
「投球前の立ち方」「軸足の動き」「前足の動き」「胴体の動き」「肩甲骨から指先までの動き」という部分に分けて書いてみました。
人それぞれフォームは違いますし、直すべきポイントも違います。
なので、よくある書籍や指導などのように、特定のモデルを設定してそれに向かってすべてを直していくようなことはしません。
理想とするフォームは、キンブレルでもよし、松坂でもよし、ダルビッシュでも、大谷でも、好きな選手を設定すればよいのです。
以上のことを念頭に、読み進めてもらえればと思います。